いちご狩りでひゃあっ!
朝の研究室。
いつもならコンソールに向かっているデータちゃんが、珍しく窓の外を見ている。
「…いちご狩りに行きたいです。」
全員が固まった。
「…デ、データちゃんが…?」
「データちゃんが言った!?」
「あら〜、珍しいですね〜。」
三人がデータちゃんをじっと見る。
「…非効率な視線ですね。いちごの味覚データが不足しています。それだけです。」
データちゃんはコンソールに目を戻す。
「いきましょう〜♡」
「準備してくるねー!」
「…あ、私も…用意を…。」
「承認。」
アール所長がぷかぷかと八の字を描く。
——そして午前中。
浮遊陸地のはずれにある農園。
太陽の光の下、いちごのビニールハウスが並んでいる。
生暖かく湿り気のあるビニールハウスの中でデータちゃんがコンソール片手に粛々といちごを摘んでいる。
「…これはいい糖度。」
「…こっちは形がいい。」
「こ、これは、今日の中での最高品質…。」
データちゃんが一列ずついちごを確認しながら素早く数値を打ち込んでいる。
カゴにはデータちゃんの審美眼にかなったいちごだけが選別されている。
摘んだいちごをひとつラボちゃんの方へ差し出す。
「…現時点で見つけた最高傑作です。評価をお願いします。」
「…わたしが…ですか…?」
「ラボが適任と判断しました。」
ラボちゃんがそっと口に入れる。
「…おいしい…です…。」
「記録しました。」
データちゃんがコンソールに打ち込みながら、もうひとつそっと差し出す。
目が合う。
即座にコンソールへ視線が戻る。
ラボちゃんはそれも静かに食べた。
——そのとき、遠くから勢いのいい声が近づいてくる。
「ラボ姉!!こっちこっち!!」
エキスちゃんが両手いっぱいにいちごを抱えてやってきた。
ラボちゃんの前にどさっと置く。
「これ全部食べて!おいしいやつだよ!」
「ひゃっ、こんなに…?」
「食べてみて食べてみて!」
エキスちゃんが次々といちごをラボちゃんの口元に運んでくる。
「…お、おいしい…です…。」
「…こっちも…おいしい…です…。」
「よかった!もっといってみようか!?」
「…え…これくらいで…大丈夫です……。」
「いや絶対もっと食べた方がいい!甘いやつ選んできたから!!」
データちゃんがコンソールを打ちながら横目で見ている。
「…ラボの摂取ペース、0.8秒に一粒。記録しました。」
「…記録…しないで…ください…。」
——しばらくして。
「ラボさ〜ん♡」
オブちゃんがゆったりとした足取りでやってきた。
手に持ちきれないほどのいちごを抱えている。
「ラボさんに食べてほしくて〜、全部摘んできちゃった〜♡」
いちごをラボちゃんの前にひとつひとつ並べていく。
「…あの…。」
「楽しくて摘んでたら山になっちゃった〜。」
ラボちゃんの目の前にいちごの山ができている。
「…あの…これ…全部ですか…。」
「そうよ〜♡早く食べないと傷んじゃうわよ〜。」
ラボちゃんの顔が曇る。
「…もう…無理、です…。お腹が…いっぱいで…ひゃあ……。」
「あら、まだ半分も残ってるわよ〜?」
データちゃんが数えている。
「…残量、94粒。」
「多い…ですよ…。」
——そこへ。
アール所長がぷかぷかと浮いてくる。
頭のてっぺんに、大粒のいちごがひとつ乗っている。
「…承認。」
差し出すように傾く。
ラボちゃんが困り顔でアール所長を見る。
「…ありがとう…ございます…。でも、もう…お腹いっぱいで…。」
アール所長、動かない。
「…あの、アールさん…?」
【男気承認完了アール!!】
<なんだ、食わんのか! いちごのビタミンCは筋肉の修復を助けるんだぞ!前腕筋が喜ぶ!食え!>
「ひゃあっ!!」
山が崩れる。いちごが転がっていく。
エキスちゃんが転がったいちごを拾い始める。
「所長が言うなら食べるしかないじゃん!!」
「…それは論理が飛躍しています。」
「あら〜でも食べたら元気出そうよ〜♡」
ラボちゃんはいちごの海の中にちょこんと座っている。
「ラボさん食べられなさそうだから三人で頑張りましょう〜。」
「…想定外の分量です。研究所を出るときはこんなはずではありませんでした。」
「誰がこの所長いちご食べるー?結構大きいよ!!」
「…ひゃあ…」
残りのいちごを頬張っている三人を見つめている。
——いちごの香りが漂う帰り道。
「おいしかったわね〜♡」
オブちゃんがにこにこしている。
「所長がマッチョになったときはどうなるかと思ったけど!!」
エキスちゃんが大笑いしている。
ラボちゃんはしばらく黙っていた。
「……私は…たくさん食べさせられました…。」
データちゃんがコンソールを見ながら言う。
「…ラボは本日の摂取数、全員中最多でした。」
【ブオオオオーーーー】
アール所長がぷかぷかと隣を漂う。
「浮遊継続中。」
今日もアール研究所は平和であった。