新入社員でひゃあっ!
研究室。
朝から落ち着かない空気が漂っている。
「…今日は新しいメンバーがくるみたいですよ〜。」
オブちゃんがカップを両手で持っている。
「え、えっと…どんな…方ですか…?」
「ロボットみたいですね〜。」
「ロボ太とかいったっけなー!!」
エキスちゃんが弾んだ声で続ける。
「…性能データが欲しいですね。」
データちゃんはコンソールに目を落としている。
「承認済み!事前承認!」
アール所長が宙で8の字を描いている。
——そして午後。
「ロボ太です。よろしくお願いします。」
入り口に立っているのは、やや丸みのあるフォルムの中型ロボット。
目がくりくりしていて、頭のてっぺんにアンテナが一本ついている。
「よろしくー!!」
「…よろしくお願いします。」
「歓迎です〜♡」
「…よろしく…おねがい…します……。」
みんなの挨拶を受けてロボ太がぺこりと頭を下げる。
「…それでは…各担当の仕事を…見学して…もらい…ますね……。」
まずはデータちゃんのところへ。
データちゃんがコンソールに向かい、淡々と数値を打ち込んでいる。
「…ここで研究室全体の記録と解析を担当しています。」
「なるほど、こうやるんですね。」
ロボ太が関心しながら横でメモを取っている。
「…非効率な動作をするとすぐわかります。」
「それは…すごいですね。」
「…当然です。」
データちゃんが短く答えて画面に視線を戻す。
ロボ太のメモが止まっていない。
——次はエキスちゃんのところへ。
作業台の上にケーブルや基板が散らばっている。
エキスちゃんが目を輝かせながら手を動かしている。
「ここではいろんな新しいものを作ってるんだ!!」
「どんなものが…できるんですか?」
「んーとね、こことここをつなげると回路が接続されて……」
ボンっ!!
煙が上がる。作業台の端にビーカーが転がっていく。
「はいっ!なにかよくわからないものができましたー!!」
エキスちゃんが両手を上げて喜んでいる。
「…大丈夫なんですか?」
ロボ太が煙を手で払っている。
「大丈夫、どうにかなるっしょ。ラボ姉で試してるけどいつも平気だよ!」
「…そうですか。」
ロボ太のメモが一瞬止まった。
——次はオブちゃんのところへ。
広めの実験室。棚に大小の機器が並んでいる。
「ここではエキスさんのつくったものをテストしています〜。」
ロボ太がメモを取る。
「仕様書を見るとこのレバーを右に倒すようなのですが、ロボ太さんやってみてもらえますか〜?」
「わかりました。えっと…」
ロボ太がレバーに手をかけ、引いてみる。
「あれ、結構固いです。うーん…。」
「ちょっと見てみますね〜。貸してもらえますか〜?」
「あ、はい。どうぞ。」
オブちゃんがそっとレバーを受け取り、力を込める。
バキッ!!
「あら、ちょっと壊れちゃいましたね〜。」
「…え。そんな簡単に壊れないはずでは…。」
「大丈夫ですよ〜。またエキスさんに直してもらえばいいんです〜♡」
オブちゃんは壊れたレバーを押し込んで無造作に棚に戻す。
ロボ太のメモのペースが明らかに落ちている。
——そして最後はラボちゃんのところへ。
静かな資料室。本棚が壁一面に並んでいる。
「…えーと、ここでは言語について…古い書物の解析や…」
ラボちゃんが棚から大判のノートを取り出そうとした。
ノートを開く。
まばゆい光が走る。
「ひゃあっ!」
「やったねー!!」
「…いいデータが取れました。」
「今のひゃあも可愛かったですね〜♡」
三人がロボ太の横で楽しそうにしている。
「…ちょっと、人がきているんだから…やめてください…。」
ラボちゃんが眼鏡をクイッと直す。顔が少し赤い。
【ブオー】
「ふふ〜、ロボ太さんもそう思いますよね〜?」
ロボ太が固まっている。
——しばらくして。
ラボちゃんが隣の部屋に入ろうとする。
カチッ。
「…あれ…?」
床が光る。感圧板だ。爆風が廊下を走る。
「ひゃあっ!」
ラボちゃんは壁に手をついて無傷でふんばっている。
ロボ太はそのまま廊下の端まで吹き飛んだ。
「…感圧板は有効ということですね。記録しました。」
データちゃんが素早くコンソールを打ちながら続ける。
「…ロボ太さん、大丈夫…ですか…?」
ラボちゃんが廊下の先のロボ太に駆け寄る。
「…なんであの爆風で大丈夫なんですか…。」
ロボ太が壁にもたれかかっている。
——そしてその直後。
「感圧板の場所、もう一箇所ありますよ〜♡」
オブちゃんがにこにこしている。
カチッ。
もう一度、爆風が巻き起こる。
「ひゃあっ!」
エキスちゃんが廊下の奥からロボ太の飛んでいく様子を見届ける。
「あっ!飛んでった!!!」
ラボちゃんは感圧板の上でコートがバサバサ揺れている。
「…ロボ太の記録、完了です。」
データちゃんが淡々とコンソールを閉じる。
「…ロボ太さん…きてるんだから…やめてください…恥ずかしいです…。」
ラボちゃんが袖で顔を半分隠す。
顔が真っ赤に変わる。
【ブオオオオーーーー】
冷却ファンの音が廊下に響き渡る。
「浮遊継続中。」
アール所長がぷかぷかしながら廊下の上を通過する。
——後日。
「なんで皆さん、大丈夫なんですか。僕には無理です。」
ロボ太の声には深い実感がこもっていた。
数日後、データちゃんだけに手紙が届いた。
封筒を開くとメモが一枚入っている。
『データさんへ。
あなただけ普通でした。
またいつか遊びに行きます。
ロボ太』
「…非効率な手紙ですね。」
データちゃんがコンソールに視線を戻す。
ほんの少し、口角が上がっていた。
研究室では今日も、ラボちゃんが何かに驚いている。