桜の花見でひゃあっ!


研究室の窓。
外の桜がうっすらと色づきはじめている。
「あら〜、少しずつ咲いてきましたね〜。」
オブちゃんが窓枠に手をついてゆっくりと外を見ている。

「…まだ三分咲き程度ですね。」
データちゃんがコンソールで開花率を確認している。

「行こう行こう!お花見!!」
エキスちゃんがすでにリュックを背負っている。

「え、えっと…準備、できてますか…?」
「準備完了!!」
「花見、承認!承認!」

アール所長がぷかぷか浮いて廊下に出ていく。

——研究所の裏、桜並木のある広場。

ブルーシートが広げられ、みんなが腰を落ち着ける。
「ラボちゃんのサンドイッチ、すごい種類!!」
「…一応…たまごとハムとツナを…。」
「丁寧ですね〜♡」
「…食材の組み合わせが最適化されています。」
「ラボ姉ほんとすごいよー!!」
「ひゃあ…。そんな…そんなことは…。」
ラボちゃんが袖で顔を隠す。

「紅茶も持ってきましたよ〜。ラボさん、ダージリンでいいかしら〜?」
「…あ、ありがとうございます…。」
オブちゃんがカップに丁寧に紅茶を注いでいく。

アール所長がオブちゃんの頭に乗る。
「ちょっと、アールさん、こぼれちゃいますよ〜。」

三人がサンドイッチをつまみながら桜を見上げる。
「でももうちょっと咲いてたらよかったね。」
「あら〜、もう少しですね〜。」
「…開花率、42%。最大値まで誤差があります。」

「…ねえ、もっと咲かせちゃおうよ!!」
エキスちゃんがリュックをごそごそとあさりはじめる。

「…どういう…意味ですか…。」
ラボちゃんがサンドイッチを持ったまま固まっている。

「じゃじゃーん!『花咲かじいさん』!!」
リュックから小型の噴霧器のようなものが出てきた。
金色のボディに花の絵が描かれている。

「…また自作ですか。」
「そうそう!花の開花を促進する特殊液体を噴射する装置!!」
「あら〜、それで咲くのかしら〜。」
「…理論値では開花促進、最大300%です。」
「…え、えっと…それ、本当に大丈夫なんですか…。」
「大丈夫大丈夫!!軽くやるだけだから!!」

——実験開始。

エキスちゃんが桜の木に向けてトリガーを引く。
シュッ、と細かい霧が散っていく。

しばらくして。
「あ!咲いてきた!!」

桜のつぼみがぷくぷくとふくらみ、花びらが開きはじめている。
「わあ〜、きれいですね〜♡」
「…開花率、68%。上昇中です。」
「ラボちゃん見て!!」
「…すごい…ですね…。」
薄ピンクの花びらがゆっくりと広がっていく。
ラボちゃんが眼鏡の奥でぱちぱちとまばたきをしている。

「もっといけるんじゃない?!」
エキスちゃんの目が光った。
「ちょ、ちょっと…エキスちゃん…?」
「フルパワーにしちゃおう!!」

「不承認!不承認!!」
アール所長の光が激しく点滅する。
だがもう遅い。

【ぎゅうーーーーん】
装置の出力が一気に跳ね上がる。
霧が嵐のように桜の木全体を包む。

「うわあ!すごい!!」
「…出力、限界値超えています。」

ラボちゃんが立ち上がる。
「…ひゃあ、桜が…散ってしまって…います…。」

花びらが吹雪のように舞い散っている。
咲いたそばから白とピンクの花びらが次々と落ちていく。

「あちゃー…。」
エキスちゃんが後頭部に手をあてている。
「…開花後、即散花。促進しすぎです。」
「あら〜、すごい量の花びらね〜。」
桜並木の木という木から花びらが一斉に舞い、広場が白く埋まっていく。
ラボちゃんが花びらを手でそっとすくう。
「…せっかく咲いたのに…。」
静かな声だった。
「ごめんラボ姉…。」
「…桜は毎年咲きますし…。」
「…花びらがこんなに集まったのは初めてのデータです。」

データちゃんが周囲を見回している。その目が少しだけ丸くなっている。
「きれいじゃない〜。花びらのじゅうたんね〜♡」
オブちゃんがふわりと腰を下ろした。スカートの裾に花びらが積もっている。
木の枝はがらんとしているが、足元の地面は淡いピンク一色。
みんなが座り直して、また紅茶を飲みはじめた。

「…あれ、なんか暑くない?」
エキスちゃんが首に手をあてる。
「あら〜、気温が上がってきましたね〜?」
「…外気温、上昇中。花咲かじいさんの副作用ですね。」
「え…副作用…?」
「開花促進液の気化熱が逆に気温を上げています。想定外の副作用です。」
「…そ、そういうことは…先に言ってください……!」
ラボちゃんの顔が少しずつ赤くなっていく。

「あら〜、ラボさん顔が赤いわよ〜?」
「え、えっと…暑く…なってきて…。」
どんどん赤くなる。

【ブオオオオーーーー】

ラボちゃんの冷却ファンが全力で回りはじめる。
「冷却ファン全開だ!!」
「…熱処理中ですね。有効な対応です。」

ブルーシートの花びらがラボちゃんの冷却風で舞い上がる。
一面のピンクがふわりと空に上がった。
「わあ〜♡きれいですね〜。」
「…二次的に花吹雪が再現されました。」
「ラボ姉が花咲かじいさんだ!!」
「ひゃあっ!!ちがいます…!」

【ブオーー】

アール所長がぷかぷかと花びらの中に浮かんでいる。
「承認!承認!」

白とピンクの花びらが空中をゆっくりと漂っている。
さっきよりずっときれいだった。
「また来年も来ましょうね〜♡」
「…ま…また…来ますか…。」
「来るよ!!絶対!!」

【ブオーー】

ラボちゃんの冷却ファンがまだ回っている。
花びらがまだ舞っている。
桜並木の枝はすっかり葉桜になりかけていたが、広場だけは春の真っただ中だった。

keyboard_arrow_up